歌の話者としての存在感を増すまいまいに雄飛の時迫る

天道に照らしても いまだ我が道は 定かではない
雌伏して待つことはたやすく 雄飛の機を知ることが至難だ (曹操)
ー『蒼天航路』 その七十九 より



乃木坂46の8thから9thシングルには
首を傾げたくなる「企画もの?」って感じの顰蹙作も多かったわけですが、
敢えて擁護論的に「寄せて」考えるなら
「ヒロイン像」「主人公」「マルチ・センター態勢」作りへのトライアルの数々ともみなせます。
クールでダークな愁いを帯びたヒロイン:まりっか(伊藤万理華)の「ここにいる理由」、
イマ風にイケてる華やかな都会派お姉さん:まいやん(白石麻衣)の「その先の出口」、
情熱とスキルの無冠のプリンセスのハジケた姿:いくちゃん(生田絵梨花)の「ダンケシェーン」、
等々と、次へ先へ、未だ見ぬポテンシャルを、そしてみんなに拡がるチャンスへと
ハズシと顰蹙を怖れず、CDとMVと歌披露TVとラジオ/有線/街角とライヴの
マルチ・パレットでの総合力増強を目指して色んなことをやってみてる段階、と
大マケにマケて大甘に甘く、未来に期待して今は泣いとくことだってできなくはないんですよ。
心臓もしくはスンゾウを捧げたファンのボクにはそんな強弁だって不可能ではないんです。
それにしてもフィーチャーされるメンバーの人数が少ないし固定もしてるしで、
も少し広く早く柔軟に、でお願いしたいところですよね。



その視線を移して、MVなしながらの隠れた傑作「何もできずにそばにいる」と「吐息のメソッド」。
そこにボクはこの先の手がかり、乃木坂の雄飛の機を感じるのです。
音楽的には「気づいたら片想い」「生まれたままで」にも負けず劣らずなのに
MVなし、Type-A単独収録の「吐息のメソッド」なんか、
なんなら「夏シングル表題曲」として取り置きしといてもよかったくらいのデキなんですよね、
地味渋ながら実に乃木坂らしく、アメリカ東海岸のリゾートの夏、みたいなムードで。
フィリー・ソウル、ABBA、スクリッティ・ポリッティ、
映画『避暑地の出来事』のテーマのパーシー・フェイス・ヴァージョン、等への
オマージュ/目配せが含まれており、
目立つウワモノ:ピアノ、ストリングス、バッキング・コーラスのみならず
ファンキーにタメ・ハネの効いたドラム、ベースにいつもの乃木坂/ソニー色が目一杯聞こえます。
"80年代歌謡曲っぽくて古臭くダサい" とか言う人こそむしろダサいわけですね。
せっかく乃木坂派各プロが丹精こめて作った音楽的快感が頓着なしに聴き捨てられるなら
打ち込みとシンセ音でさっさとお手軽に全トラックを片付けちゃえば
売る側としてはこれほど楽で効率がいいことはないんですよ?



怒りを抑えて閑話休題。
「吐息のメソッド」で更に特筆すべきは、
どうってことなさげなラヴ・ソングのていを取っているようで
これまた相当に乃木坂メンバーに
殊にまいまい(深川麻衣)、みさみさ(衛藤美彩)をはじめとする
雌伏に耐え乃木坂を信じ愛し続けてきた「大人メンバー」に寄せたような
たおやかな強さと希望と決意を柔らかく爽やかに謳ったポジティヴ風味でしょう。
「恋」「ロマンス」を歌手活動や芸能活動やキャリアやヴィジョンや人生に置き換えれば
これまた普遍的な価値を持つ、柔らかく爽やかにもどこかビター・スウィートな良曲として聴けます。
「なぜだか知らぬ間に 人は誰も 疲れてしまう」
「心を振り絞って ゆっくり吐き出せばいい そうよ 夢を見続けるため」
「まぶたを閉じてごらん 何かが見えるでしょう? ほら 悲しみの忘れ方」
「すべてを振り絞って 気分を変えてみよう Yeah!新しい自分」
穏やかにゆったり構えて焦りを伴わない、それでいて堅く揺るぎなく何物にも脅かされない
心の奥でゆっくり熟成して成長してきた本物の乃木坂流ポジティヴィティが
泣いた後の爽やかさを感じさせるようなサウンドに乗せて
押し付けがましくなることなく高らかにしなやかに謳われているのです。



おそらくはライヴ映え、コーラス・グループ美学、役割分担、総員フル稼動態勢を鑑みて
そしてもちろん「アイドル・ソング」のフォーマット上の必要から
「といっき〜♪」「メソッド〜♪」「A!B!C!D!E!」「1!2!3!4!5!」という
おマヌケでポップでかわいらしいコーラス・パートが入ってこそいるものの、
この曲の歌披露の場での — ライヴ、TV番組等でのパフォーマンス映えは
想像するだにスゴいものがある気がします。
そして、レコーディング上の歌パート割りがどうあれ、この曲の見せ方上でのフロントは
まいまい、みさみさ、かずみん(高山一実)、まりっか(伊藤万理華)、さゆ(井上小百合)
あたりが相応しく、説得力があり、「映える」「刺さる」と思うのです。
「心を振り絞って ゆっくり吐き出せばいい そうよ 夢を見続けるため」 —
まいまいがそう唄う時の強烈に迫ってくる感動、もう見える気がしませんか?



前エントリ でボクは
「何もできずにそばにいる」のいわばイメージ・キャラクターとして
まいまいの名をこっそり敢えて列挙の筆頭に挙げていたのですが、
「乃木坂メンバーには序列/順位付けは不要で無意味」という将来の境地を考える時、
たおやかで柔らかな大人チューンでのイメージ依り代としての深川麻衣のポテンシャルに
乃木坂全体にもやがては及ぶ雄飛の機が見える気がするのです。
楽曲次第、番組次第、企画次第、フィールド次第、フォーカス・ポイント次第で
変幻自在/百花繚乱/総員トップであるはずの乃木坂46の将来の姿を幻視すれば
「このシングル期の『選抜』は誰々で、それは全メディア/フィールドで共通」という戦法こそ
いまやむしろ的外れで無理があり、
そこからの脱却とその先/外での自由と実績こそが次なる乃木坂46のミッションなはずですから。




「吐息のメソッド」はType-A収録








  

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