のっそり構えて突然に — 佐々木琴子の冷静と情熱のあいだ

のっそりと いきなりか なるほど
当然のごとく孫堅や孫策と照らしていたが あの若造
父と兄 二代の遺したものにのっそり跨りつつも
そのまま押し上げられて天下に出てゆくことをよしとせず
あたりまえのように自軍が引いた長江という戦の境界を 思わず破ってきおったか
思わずいきなり — そこに新たな人の始まりを感じるぞ 孫権  (曹操)
— 『蒼天航路』その二百八十五 より



近くはななみん(橋本奈々未)、遠くはぱるる(島崎遥香)など
グループの内でも「やる気がないように見える」「やる気が見えづらい」というメンバーが
実は静かにも熱く深くそのグループを愛し、
また自分らしい自分を通すことによってこそそのグループに貢献できるはずという確信を持っている、
という例が時として見られます。
乃木坂46の2期生/研究生の内では、飄々と淡々とおっとりと楽しげにしているように見える
琴子こと佐々木琴子ちゃんもまた「やる気が見えづらい」最たる例と目されていたフシがあります。



前エントリでも例示したとおり、もちろんそれは誤解です。
琴子は、研究生/年少組であるにもかかわらず、驚くほどどっしりと泰然自若として焦らず
一旦機にあたってはフル・スロットルで、でも無理なく飾らずありのままの自分でありつつ
乃木坂46のメンバーであることをしっかり体現してきました。
そんな琴子が、おそらく『16人のプリンシパル trois』での稽古の場がきっかけで
心の奥に秘め、あやし、なだめすかしていた芸事/アイドル活動/パフォーマンスへの熱情を
爆発的に表出させることになったのが、前回も触れた以下のエントリ。
可愛い女の子が沢山出てるアニメ が好き@佐々木琴子 | 乃木坂46 研究生 公式ブログ
そこには、運営もメンバーもファンも思い及ばなかったような驚きのヴィジョンと策が見られます。



「研究生って、まだあんまし表に出る機会が少ないです。
 あるとしたらライブやこれから始まるプリンシパル、全国握手会の自己紹介
 自分たちが歌って踊ってる曲はまだもらえてないし
 個人pvに参加したのは一度で
 シングルに参加できるのも歌詞カードの最後のページに公式ホームページのプロフィール写真で
 近況を伝えられるのは9日に一回のブログだけ。」
ここには驚くほど精緻で冷徹な分析、
そしてそれを「キレ」的な不満の表明とはしない衷心からの叫びがあります。

琴子の謂う「表に出る機会」とは何でしょう?
それは握手会での1対1の10秒前後のファンとの閉じた個々の会話ではありません。
それは「開かれた」パフォーマンス/芸事ではなく
ごく限られた形での「ファン・サーヴィス」に過ぎないのですから。
対して「ライブ」「プリンシパル」はもちろん、単なる「自己紹介」も
1対多、多数の他人へ向けて自分をぶつけていける「ポップ」な行為でありアイドル仕事です。
乃木坂46を一般の中学生としてテレビ等で観て、それに魅かれそれを愛した琴子にとって
1対多のパフォーマンスこそが「アイドルがやること/やっているべきこと」であるのでしょうし、
たとえボロカスに貶される羽目になったとしても、自分をぶつけて多くの人に可否を問う —
パフォーマンスやプロダクトの可否を問われる機会こそが「表に出る」ことなのでしょう。

「個人pv」も「プロフィール写真」も、たとえどんなにちっぽけなものだとしても
琴子にとっては大事なパフォーマンス/プロダクトの場です。
扱いがちっちゃくても、その度に新しく、成長して変化した姿を撮られて見てもらいたい。
「公式ホームページ」の出来合いの過去のおんなじ写真では、何にも見せようがない、のです。
「9日に一回のブログだけ」では、伝えたいこと表現したいことを
すぐに思い切り書いて発表することさえできないのです。



琴子は、さらに仰天の、大胆不敵なまでに遠大にして、かつ当然といえば当然の正攻法を
熱く、同時にさらっと提示しています。
「自分たちが歌って踊ってる曲はまだもらえてないし」
「こんな経験不足な私がライブやプリンシパルに出させていただけてるのは本当に嬉しい
 だけど、全国握手会では自己紹介じゃなくて自分たちの曲を歌って踊りたい
 そうやって経験を積んでいきたい。」
これが仰天なのは、われわれファンも、運営もメンバーも
「乃木坂46運営」の通常のフォーマット:"認められたら上に引っ張り上げられる"式を
いつのまにかデフォルトで不可避の当り前方式と信じこんできたからですね。
琴子がここで示唆しているのは —
研究生が研究生のまま、ほんの2曲でも1曲でもいいから自分たちの曲を与えられ
握手会でもミニ・イヴェントでもいいから「お客さん」の前でそれを披露し
歌やダンスの完成度の低さに落胆やブーイングを集める羽目にたとえなったとしても
その悔しさをバネに、上達への肥やしにして
そうやって経験を積んでいきたい、そうしなければ経験なんて積めやしない
— という畏るべきヴィジョン。
千尋の谷に自ら落ちることを辞さない獅子の子のような強いハートです。
琴子の愛した乃木坂46というのは、それゆえ入りたいと思った乃木坂46というのは
何よりそうした至弱よりスタートする至強の姿、だったのでしょう。



これほど猛り立つような熱い咆哮を上げておきながら、そこはまたまた琴子殿!
照れ隠しのように、ぺろっと舌を出しウィンクするように
フォローと深慮の言葉で締めています。
「別に不満な訳じゃない
 ただ、これで満足している訳ではないです。
 矛盾してるね笑」
「うん
 そゆこと。」
不満が自分を腐らせるようなら、もうそんな人はアイドルであれやしない。
でも、ただグループに在籍してるだけではいつまで経ってもアイドルたることはできない。
とんでもなくプログレッシヴな、そしていかにも乃木坂らしい矛盾のない弁証法でしょう。



この後、琴子は待ち望んだおおやけのステージ『16人のプリンシパル trois』で
「そっちこそ!」を受け継ぐ「棒読み」や「愛され琴子 ※1」の称号により
出来不出来だけでは評価しようのない乃木坂らしいアイドルネスを多くの人に知られるのですが、
観てないボクはその辺のことは他のどなたかにおまかせしましょう。
ありとあるビハインド状況を物ともせず、自然発生的な関心と愛おしみと面白がりによって
ファンとメンバーからの無償の愛と賞讃で押し上げられる —
佐々木琴子の上り坂の形もまた、実に乃木坂らしいものとなることでしょう。



※1 
愛され琴子(。・ω・ )ノ゙笑257 | 乃木坂46 秋元真夏 公式ブログ








  

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