手を伸ばすことそれ自体の希望と美 — 思春期の表象としてのワカツキ

乃木坂46の若様ことわかことワカツキことわかちゅきこと若月佑美ちゃんは
その初期には(もしかしたら現在も一部では)
「みゅうみゅう」というニックネームで呼ばれていました。
おそらくメインには発音のしづらさによって廃番となった「みゅうみゅう」呼びですが、
男装時の凛々しさやメンバーへのジェントルな気遣いなどによって「若様」が
また、発語の快感と、音のシャキシャキ感とイメージの一致によって「ワカツキ」が
いつしか優勢になってしまって
全体の和と他者の気分を重んじる彼女が自然な流れでそれを受け入れた、と考えるのが
ことの顛末に対する推察としては遠からぬ当たりではないかと思います。



現在では多くのメンバーに「わか」と
「相方」のれかたん(桜井玲香)には「ゆみ」と呼ばれているわかは、  ※1
ニックネームに関するこのようなアンビヴァレンスにも象徴されるように
女の子らしさ/女性らしさと男前感/凛々しさのイメージとの間で常に揺れ動いている感があります。
抽象デザイン画とともにお菓子作りをも愛し、
ロック系寄りのクールめ辛口めのファッションとともにスウィートなワンピースをも愛し、
ちゃきちゃきギャハギャハ活発におしゃべりしている外面と裏腹に
一人になると時としてくよくよイジイジと悩んでいるという内面 —
イメージと内心、理想と現状、自信・実績と挫折感・不安の間を
今も大きな振れ幅で揺れ動いているらしき姿。
人それぞれに異なる形であれ、その「揺れ動き」で共通する思春期における人の在り様。
それもまた若月佑美の魅力の大きな、そしてもしかすると根源的な部分であると思うのです。



これはボクの雑駁な杞憂であればよいと思うんですが、
「顔芸のプロ(川後陽菜命名)」ことわかは、2014/02/10のブログで
その顔芸の封印を示唆するような物言いをしていました。  ※2
気丈にシャレめかしているとはいえ、そこにはわかのショックと失意が少なからず窺え、
もし乃木坂46という場でなかったら、小さいが根深い不協和音の種にさえなりかねない
危ういものを感じさせられても不思議ではありません。
実際、乃木坂46をよく知らない人が観たとしたら
ナタリーの特別企画動画『乃木坂46の1stライブDVDを乃木坂メンバーと一緒に観よう!』の
第4部におけるまいやん(白石麻衣)、かずみん(高山一実)
第5部におけるななみん(橋本奈々未)、いくちゃん(生田絵梨花)、ゆったん(斉藤優里)
のはしゃぎ騒ぎ笑いっぷりは
「ん?そのワカツキって子はdisられてんのか?」と取られても不思議ではないレヴェルです。

乃木坂46 『【第4部】乃木坂46の1stライブDVDを乃木坂メンバーと一緒に観よう!』
乃木坂46 『【第5部】乃木坂46の1stライブDVDを乃木坂メンバーと一緒に観よう!』
ともに公式チャンネル nogizaka46SMEJ さんから



ですがもちろん、乃木坂をよく知るファン、およびよく物事を見る人なら分かるように
彼女たちは同時に、乃木坂46および自分自身をも客観的鑑賞/評論対象として捉えて物を言っており、
その対象の最たる、触れずにはいられない、目を留めずにはいられないものとして
わかとその顔芸を挙げているのですね。
照れ隠しを含んだ「顔芸のプロ」の呼称の下に、乃木坂メンバーたちは
その演じる表情に瞬間瞬間に閃く何かを垣間見て、
心騒ぎ心躍り心打たれるものを感じてこそその「芸」を褒めそやしているのです。
悪気はないものの稚気と茶気に逸るメンバーたちがはしゃぎ騒ぐ中でも、
さすがは「聖母」のまいまい(深川麻衣)が見事な気遣いを見せて代弁してくれているように —
「ワカツキはさあ、言われてそんな嬉しいと思わないかもしんないけど、
 それってほんとに才能のひとつの表現力の大きく出る...(聴き取り不全) ※3」—
わかの「演じること」「表現すること」への愛と情熱は
ちゃんと理解され、尊重され、受容され、賞讃されているのです。
わかの美しさ、愛らしさの由来は、未熟な「思春期の少女」という器に捉えられた魂が
それでも遠くの何かへ焦がれ憧れ手を伸ばし続ける姿の美しさといじらしさ、でしょう。
巡り巡ってはそのいじらしさは、少女ならずとも若者全体、人間全体に通底し得るものでもあり、
照れ屋でその裏返しとしてゆえのツッコミ体質のメンバーの多くも
人間の、少女の、思春期の、自分たちの「鏡像」「芸事での象徴表現」を思いがけずそこに見出だし
愛しくも面映くこそばゆい気持ちの反射として「笑っちゃう」という反応に落ち着くわけです。
それゆえ、ファンなら、なんならメンバーだって、
"わか、君はもう迷わなくていい、自信を持ってどっしり構えてゆっくり進んでいけばいい"
というふうに言ってあげたくなるところでもありましょうが、
逆に、その常に迷い揺れ動く心こそがわかの大きな原動力ともなっていると考えれば
すべてがいずれ「芸の肥やし」となり、その将来性へと繋がるはず、
と安心して見守っていればいいとも言えるかもしれません。



2013年終盤から2014年の3ヶ月にかけてのわかは
『乃木坂って、どこ?』にせよドラマ『失恋ショコラティエ』出演時にせよブログの自撮りにせよ
かなり明るめの茶色の髪色、眉が見えるか見えないかほぼ見えないくらいのぱっつん前髪で
スウィートでガーリーな見た目路線を押し出しているかに見えましたが、
2014年3月末更新の公式サイト/ブログのプロフィール写真では一転、
過去最大級なくらいの黒髪、凛々眉、にらみつけるような怜悧な表情で
以前の毅然とした知的清楚美少女感あふれる「女前」っぷりを再び見せています。
アイドルの髪の色や髪型は受けるお仕事に準じてしょっちゅう変えられるものとはいえ、
しばらくは固定的におおやけに発信される公式サイトのプロフィール写真でその姿。
「大人の色気とまではいかないまでも19歳ならではの雰囲気を持った」と語っていたわかが  ※4
"いまはまだその時機じゃない、いまはまだそんな自分じゃない"とばかりに
元々の素養を — 荒ぶり挑戦し手を伸ばし何かに憧れ焦り悩み苦しむ自分の部分を
いま一度衒いなく恐れ気なく出してきた、とも取れるでしょう。



これから先はおいらがただ生き存えるだけで
乱世は深まり人が死ぬ
そのことを受け容れるのにもう躊躇(ためらい)はねえ
それもおいらの徳だ (劉備)
— 『蒼天航路』 その二百三十四 より 



"ワカツキは喋り口調が乱暴で女らしくなくて嫌いだ"
"ワカツキの暑苦しくて人生哲学じみた物言いが苦手" —
世間、もしくは「アンチ」間に存在するであろうそうした拒絶の壁・バリア・逆風をも
"それはそれでその人のいち意見、いちいち気にして合わせてもいられない"とばかりに
許容し、受け流し、捨て置き、笑って忘れて次へ、次へ、さらなる高みと拡がりへ —
わかの新たな自信と新たなポジティヴィティを、ボクは深読みも覚悟でそこに見出だすのです。



※1
『NOGIBINGO!2』第12回 より

※2 
真夏がね、真夏がね、かずみ んのバースデーする為に... | 乃木坂46 若月佑美 公式ブログ より
「ちなみに最近はしてませんw 顔で表現しても全く遠方の人には わからないということに気づいたのです。遅」

※3
『第4部』35:57地点での発言

※4
ナタリー - [Power Push] 乃木坂46「君の名は希望」特集 - 若月佑美、乃木坂46で見つけた「希望」 (4/10) より
「グループ内でも大人グループに入るし、大人の色気とまではいかないまでも19歳ならではの雰囲気を持った、内面がしっかりした女性になりたいなと思っております(笑)。」








  

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