生まれ育ったままで — さよならアキモティクス、と言えるその日まで その2

劉備 「天下を想うおいらの心は甘(あめ)え そう言ってたよな 孔明」
諸葛亮「はい」
劉備 「そいつぁ 変わりようがねえ」
諸葛亮「生まれもった本性を そのままに すなわち"𢛳"  
    まっすぐに生きてゆく すなわち"彳"
    世に言う"徳"」
    —『蒼天航路』その二百三十四 より



このブログでボクはしょっちゅう
乃木坂46の魅力の、一部に過ぎないものながら無視できない強力な部分として
その「徳」「大徳」なるものを挙げています。
政治家でも宗教家でも慈善団体でもなくアイドル・グループである乃木坂46であれば
本来なら「徳」がどうたらなんてどっちでもいいことのはずなのに。
でもこの場合の「徳」というのは、上記の諸葛亮の言のような
「生まれもった本性をそのままに まっすぐに生きてゆく」乃木坂メンバーたちの姿、
そのウソのなさ、それゆえの潔さと愛らしさを指して謂っている、と考えてみてください。
びっくりするくらいそれが個々の乃木坂メンバーの魅力に繋がっていることが感じられるはずです。



さて。
「生まれ育ったままで」ならぬ「生まれたままで」は
乃木坂46の8thシングルのカップリング収録曲のひとつのタイトルなのですが、
その歌詞はいつものようにアキモティクス全開 — つまり
歌詞の「話者」と「話者」であるはずの歌手/歌唱者が一致していない
それゆえに
唄う者(乃木坂メンバー)、カラオケで唄う者、一人きりで聴きこむ者が感情移入できない
残念なデキとなっています。
より精確を期して言うならば
あれは秋元康氏本人か、どこかの兄ちゃんロック・バンドが唄えばいい歌詞、となるのです。
「さよならアキモティクス」とはどういうことなのか、その連続する試論のひとつとして
今エントリでは「生まれたままで」を俎上に上げてみましょう。

乃木坂46 『生まれたままで』
公式チャンネル nogizaka46SMEJさんから



細かな「難癖」というべきものはさっさと初戦として片付けちゃいますよ。
「夕焼けに染まったコンビナート地帯」
「連なった飲み屋のその一角に帰ろう」
「真っ白だった羽も穢れてはいなかった」
「誠実じゃない僕はその分大人になった」
端折ってごく一部を採りあげてみるだけで
これらの部分的モチーフ群が乃木坂ちゃんたちに見合っていない、似つかわしくない、
それだけならまだしも、むしろ正反対・対極にあることが感じられることでしょう。
泣き虫であれ意地っ張りであれクールで理知的であれ、乃木坂ちゃんたちは
真っ白だった羽を穢したくない、
不誠実さが「大人である」要件なのなら大人になんかむしろならなくていい、
わたしはわたし、ありのままのわたしでなければ何の意味もない、
という想いを貫き通すタイプであり
それが乃木坂46という場ならできる、できそうだ、という想いを抱えているタイプでしょう。
秋元康氏がどんな少年・青年時代を送ってきた人なのか、そんなことにボクは興味がないですが
むしろ彼自身、もしくは彼とそういう詩想を共有できる歌手/バンドなりが
唄ったほうがハマりませんか?と言いたいですね。



秋元康氏という人は、こうした冷笑メタ視点悪戯含み笑いが大好きな人です。
そしてそれはハマった時には大ハマりして爆笑とヒットをちゃんと生むのです。
最近ならNMB48の「カモネギックス」、遠くの好例なら早瀬優香子さんの「サルトルで眠れない」
等々と、彼の冷笑メタ視点の悪戯が「視聴者」との阿吽の呼吸の目配せによって
「康め、やりおる...」という賞讃と爆笑に結実することだってあるんですよ。
上記の2例なんてもう、タイトルを見聞きしただけでクスリニヤリと笑えるじゃないですか。
そしてボクはそれには文句がない。
どうぞもっとヒネった、もっとニッチで笑えるネタを繰り出してください歓迎します、ってなもんです。



でも、ですよ?
そうした「遊び」を乃木坂46という場でやった結果、どうなってますか?
いちばん好んでくれて感情移入してくれて応援してくれていいはずの
10〜28才くらいの女子・女性層からほとんど支持を得られてないじゃないですか。
そうした「遊び」をやってる場合、歌詞/歌の内容ってのは
秋元氏 > その歌詞を好き嫌い関係なく唄う乃木坂46 > その中のメタ言説を読み解き楽しむドルヲタ
というヒネりの入った「鑑賞方法」でしか楽しめないものとなるんですね。
「んむ?そうか?」と思う乃木坂ファンの方は
本来なら「ストレート」であっても不思議はないはずの女子目線の歌詞のもの —
「ぐるぐるカーテン」「ガールズルール」等をケース・スタディとして検証してみれば分かります。
そこにさえ「女の子が、女の子として、女の子の気持ちを唄う」場合には
あり得ないフレーズが多々見られるはずですよ。



「生まれたままで」に戻って、と。
コンビナート地帯とか飲み屋とかは、まあ些末なことですよ。
逆に些末なことであるからこそ
「私立名門女子校」イメージに合わせた相応しいパーツで置き換えるのも容易なはずです。
で、重要な点は、
真っ白だった羽を穢したくない、不誠実な大人になんかなりたくもない
ありのままのわたしでなければ何の意味もない
だからわたしは、このまんまのわたしを貫き通すために闘ってやる —
そういう乃木坂46らしい潔く美しい高らかな宣言に
この歌詞をなんとか頑張って試行錯誤して持っていかなかった努力・熱意の不足
にあるのですね。

この曲での実質センターと言っていいまりっか(伊藤万理華)と
この曲の関連性に錯綜した想いを感じる人もいる、でしょう?
"一般科の高校になんとか通い続けてみたら、うん、確かにそっちでよかった。
わたしはわたしらしく、絵/アートへの志向を捨てることなく芸術大学へも進めた。
それを許容してくれる乃木坂46で本当によかった" —      ※1
その姿は「生まれたままで」の歌詞の終点とはむしろ正反対、じゃないですか。
生まれ育った本性をそのままに まっすぐに生きてゆくまりっか —
そんなそのものズバリが歌詞にも表れていたら、どれだけストレートに感動できたことか!

「大声で叫んだ望み少ないあの夢」
「生まれたままずっと自由に生きられたら」
「いくつの嘘 自分に言い続けたのかな」
「誰かのせいにはしない 運のせいにもしない」
これらのフレーズには、秋元氏が乃木坂メンバーにインスパイアされて
ストレートにバッチリな歌詞を贈ろうとした痕跡さえ見ようと思えば見えるのです。
乃木坂メンバーの誰を例に挙げてもいいんですが
たとえばかなりん(中田花奈)、わか(若月佑美)のブログ等から窺える、 ※2
芸能界/アイドルへの夢を押し殺そうとしたオーディション以前の乃木坂メンバーたちの心情を
考え合わせてみれば、ものすごく「良い歌詞」にだって仕立て上げることもできたはずなのです。
ところが実際は見てのとおり、敗北主義的でシニカルに醒めた「諦めの歌」になっちゃってるのです。
そんな歌/唄を、はたして乃木坂ファンが乃木坂46から聴かされたいと思いますかね?



楽曲「生まれたままで」MV「生まれたままで」は、
一見、ポジティヴで元気なものになってるように見えなくはないんですよ。
MVは乃木坂メンバーによって、楽曲(サウンド)はソニー印によって保障/補完されてますから。
特にボクはそのサウンド面 — ドラムのプレイと音自体、ホーンの使い方に
『オレンジズ&レモンズ』のXTC、後期マッドネスとザ・マッドネス、
終期ザ・ジャムと最初期ザ・スタイル・カウンシル、あたりを感じてハッとさせられましたね。
いつかまた事あるごとに触れてみるつもりですが
乃木坂46に作曲、アレンジ、サウンド、楽器プレイを提供している面々は大方優秀かつ丁寧なんです。
でも「歌/唄が売れる」ことを可能にするのに、こうしたアキモティック詞作スタイルが
足をひっぱり、実は百害あって一利なし。
「さよならアキモティクス」と言える日というのは
ソニー・ミュージックレコーズ側が秋元康氏側に
「これは良い歌詞、いただきます。これはダメな歌詞、要らないです」と言える日々、なのです。
「誰か〜、乃木坂46に詞、曲、詞&曲を提供したいって人いませんか〜?」
どんだけ優秀なソングライターたちが喜び勇んで提供してくれることでしょう。
もし、ソニー・ミュージックレコーズが何らかの「違約金」を無慮10億ほども払って
秋元康歌詞独占提供契約みたいなものを破棄して
向こう4年なり6年なりを覚悟してその違約金分を回収する気があれば
それはけっして不可能な話ではないはずなのです。






※1
人形のパーツ。556回目 | 乃木坂46 伊藤万理華 公式ブログ

※2
8/6カナ? | 乃木坂46 中田花奈 公式ブログ
若月『飛ぶってフライだっけ?』... | 乃木坂46 若月佑美 公式ブログ
また
ナタリー - [Power Push] 乃木坂46「君の名は希望」特集 - 若月佑美、乃木坂46で見つけた「希望」 (2/10)








  

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