苦しく切ないことだらけの思春期の表象としてのワカツキ

奈々未!奈々未!奈々未!琴子!と偏ったスタートを切りはしましたが
ボクはいわゆる「DD」「箱推し」に近いくらい多数の乃木坂メンバーが好きです。
嫌いなメンバーはいなくて、好き:大多数、大好き:10人強、ってところでしょうか。
その中でもワカツキこと若月佑美ちゃんは
ある面で乃木坂46の象徴の大きな一角としてボクの心に強く訴えるメンバーのひとりです。



— 透明人間 そう呼ばれてた 僕の存在 気付いてくれたんだ —
乃木坂46のメンバーの多くがフェイヴァリット曲として挙げ、
また実際、秋元康氏の48グループへの提供詞の中でも金字塔的デキを誇る
5thシングル表題曲「君の名は希望」の鮮烈で苛烈な一節です。
想像しやすい生駒ちゃん(生駒里奈)、そして一見想像しかねるまいやん(白石麻衣)を初め、
多くのメンバーがこの曲、この詞を
自分の歌、自分のために作られたかのような「自分の歌」と考えています。
いろいろなヴァージョン/ステージで必殺の威力を発揮し続けているのも
この曲がもはや「ゲーノー界的によくできた感動曲」を超えた普遍性のある価値を備えたものと
なったことの証左と言えるでしょう。
参照)
【インタビュー】 乃木坂46 『君の名は希望』|HMV ONLINE
ナタリー - [Power Push] 乃木坂46「君の名は希望」特集 - 監督&メンバーが明かす「君の名は希望」PVの裏側 (6/10)
また、『週刊プレイボーイ』No.12 2013/03/25
「乃木坂46 白石麻衣&生駒里奈&桜井玲香デビュー1周年記念インタビュー」(リンクなし)



いや、今エントリではそれはさておいて、
ボクがここで語りたいのはこの曲のMV —
20数分に及ぶドキュメンタリー・タッチのそれではなく「DANCE&LIP ver.」のMVについてです。
乃木坂46『君の名は希望-DANCE&LIP ver.-』
公式チャンネル nogizakaSMEJさんから



ぶっちゃけ厳しいことを先に言ってしまえば
ボクはこのMVをそんなにまでは高く評価できません。
ダンス・シーンの衣装がまったく不要で不釣り合いなのと
劇的でダイナミックな振り付けが、これまたまったく不要で不釣り合いだと思えるからです。
さらに更に厳しいことを言えば
このMVに必要なメンバーはせいぜい4、5人しかいないと思えるからです。



「ディスり」みたいなことは望むところではないのでやめときますが、逆に
このMVで「説得力」を出している/出せているのは
西野七瀬、若月佑美、橋本奈々未、秋元真夏、くらいでしょうか。
ひいき目を排してより厳密に言えば、橋本奈々未も除くべきかもしれません。
個人的に大好きな奈々未先生、もっともこの曲に思い入れが強かろう生駒ちゃんさえ外すのには
わけがあります ー 奈々未先生は「強すぎる」し、生駒ちゃんは透明感がありすぎるのです。
結果、残るのは西野七瀬、若月佑美、秋元真夏となります。



開始から44秒、1stヴァース後のブリッジ部分、
冒頭で挙げた「♪透明人間〜」が流れる地点で映る西野七瀬、
そして49秒の地点で0.5秒ほどで素早く過ぎ去る若月佑美のインサート・ショット、
この2つだけでボクは観るたびに不覚にも涙がこみあげるのを抑えられなくなります。
いや、マジでですよ?



現行グループ・アイドル界でも屈指の美貌水準を誇ると言われる乃木坂46ですが、
そのメンバーの多くは自身のことをミソっかす、地味な存在、イケてないフツーのコ、だった
というふうに捉え、またそのことを憚ることなく述懐しています。
われわれファンからすれば驚きの言でもありますが(そしてファン以外にはもっと意外でしょうが)
その言わば「生き苦しさ」 — 自己嫌悪や自己不信や無力感や劣等感や孤立感は
思春期にある「こども」には誰にも多少なりに共通・偏在するやる瀬ない苦しさであると考えれば
もっともな感情とは言えるでしょう。



さてそこで件のMVに戻りますと、
序盤のフロント3トップ(生駒、生田絵梨花、星野みなみ)や
白石、松村沙友理が出す(あるいは出さない)説得力を、
大幅に段違いに引き離して迫ってくる西野・若月の、顔つきだけでの説得力がすごいのです。
人一倍かわいらしく美しいはずの2人の少女はその時、
よるべなく自分の心の深みに沈み苦しさを声に出して誰かに訴えることもできない
辛さのエッセンスの表象と化しています。



とりわけ、ボクが監督と「女優」の最高の技巧的コラボレーションと感じるのは
若月のうつろな、涙も感情も枯れ果てたようなうつろな表情です。
先述の49秒地点、若月の視線はどこにも合っていず、
それゆえにこそむしろ孤独の辛さ哀しさ、無意味な残酷さを的確に語っています。
2分23秒、3分59秒地点でもそれはほぼ変わることなく、
最後に到達する「希望を持つことそれ自体の希望」とでもいうべき歌のクライマックスとは対照的に
この歌が本来持っているはずのヘヴィーなほうの説得力を裏方的に支え続けているのでした。



真夏さんこと秋元真夏も、2分06秒、3分06秒地点で
同様に、かつ少し「拗ね」「諦め」「どうせ」の要素を加味して
孤独とよるべなさ、やる瀬なさを見事に表現し得ています。
その3人ともが「演技」の域を超えて
あるいは「演技」では出しようのない域での説得力を醸し出していて
それだけがボクの普段のシニカルなメタ視点を打ち破って泣かせるパワーを発揮しているのです。



それだけに残念に思えてならないのは、
このMVが、所詮は「アイドルMV」の必要十分を満たすべく美やエロス面をも考慮した作りとなり
また主要/選抜メンバーの相応の「出番」を考慮した作りとなり
それゆえに「独立したいち作品」としては詰めの甘さが目立つ
どっちつかずの「いいトコ取り」のものとしてしか成立しなかったことです。
"所詮はアイドルMV、何をマジになっちゃってんの?w"と言うのであれば
それ即ち乃木坂46の最終プロダクトの作品性/商品性を自ら貶めることとなり、
"所詮はカネを出すまではないもの"とのカウンターの誹りを免れないこととなるでしょう。
もしこのMVが
紺x白の制服衣装と静かに抑制の効いた最小限の表情の演技だけで成り立っていたとしたら
ショート・フィルムとしても十分に観れる傑作MVとなっていただろうに、と
その可能性が垣間見えただけに残念さがいや増すのです。
(ちなみに誤解なきよう言っときますと、ヴィデオ作品上の「画」にのみの批判ですからね)



いつの間にかタイトルを
というかタイトリング時に書こうとしたことを忘れてしまった感がありますが、
「思春期の表象としてのワカツキ」については、またおいおい別途書いてみたいと思います。




若月佑美の個人PVはタイプA収録







  

  プライバシー ポリシー

コメントの投稿

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
最新記事
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

乃木坂46関連過去記事
『生ドル』第25回2期生スペシャルに見る中田花奈の無償の愛 (15/06/15)
理知とぽんこつが瞬間瞬間に交錯する、『生ドル』で見せた2期生の武の器 (15/06/02)
愛し愛されて生きることのアート — かなりんの深謀遠慮と知的反射神経 (15/05/11)
愛し愛されて生きることのアート — 『生ドル』第25回に見るかなりんの神算鬼謀 (15/05/02)
2期生全員ではじめてのおつかいがもどかしくも愛おしいこと必至の『生ドル』第25回 (15/04/25)
あーちゃんはまだ2回も変身を残している — 赤ちゃん&お嬢さまな鈴木絢音 (15/04/18)
いつか世界を塗り替えるために — 優しさあれ、となーちゃん&まいまいは寡黙に祈る (15/04/14)
空から降る一億の愛、その誘惑をことわって (15/03/25)
愛に飢えてたら愛すればいいさ — そして飛鳥の奈々未愛はつのる (15/02/25)
愛されるよりも愛したいマジで — そして飛鳥の奈々未愛はつのる (15/02/22)
憧れから対等の関係へ — そして飛鳥の奈々未愛はつのる (15/02/15)
ビームしておくれ、2次元へ、とさゆりんは言うか? — 天然とリアルのはざまで (15/02/06)
ひとときの神々の黄昏 — せんばつは ちからをためている (15/01/30)
愛を乞う人から振りまく人へ — 鳳雛から鳳凰へ、静かに大きく羽ばたく飛鳥 (15/01/01)
ヲタ枠からの腕利きP ー 伊藤かりんの愛と献身(予告編) (14/12/22)
嵐を起こしてすべてを壊すの — 天下を笑わせ飼い馴らす佐々木琴子の愛の嵐 (14/12/02)
嵐を起こしてすべてを壊すの — まっさらの天下を打ち立てる佐々木琴子の天然の武 (14/11/24)
そんなことしか言えなくても — 伝説の京花に捧げる伝道の書 (14/11/10)
天然の皮をかぶった技巧派 — さゆりんの計り知れないお笑い戦術 (14/10/29)
驚くほどこども、驚くほど大人 — 佐々木琴子の理知と情 (14/10/10)
いつか世界を塗り替えるために — 乃木坂お絵描キストは理想郷の夢を見るか (14/09/17)
メンバーにはひたすらの「ありがとう」と「楽しかった」と「がんばって」を、そして「謝らないで」を (14/09/12)
コトコ・コトコ・コトコ!汝、奇襲に遭遇せしや? (14/09/04)
乃木坂派みんなでポジティブポジティブ〜! (14/08/29)
あの日観た『生ドル』の狂躁を君達はまだ知らない (14/08/22)
音がした 未来に思いを巡らせた後 奥深い所でどしりと落ち着く重い音 橋本奈々未の器の音 (14/08/17)
音がした 乃木坂ちゃんの器の音 (14/08/07)
導かれたんだよね、運命だったと思う、と乃木坂ちゃんは言った その2:かなりん編 (14/07/27)
この第2波の強さ これが乃木坂の軍かッ!、とEテレから天下がどよめく (14/07/17)
歌の話者としての存在感を増すまいまいに雄飛の時迫る (14/07/10)
こうして「君の名は希望」に次ぐ必殺の乃木坂ソングが生まれた (14/07/09)
乃木坂の叙情性を体現するムーヴィージェニック:なーちゃんとわか、激しく勇躍す (14/07/06)
最悪の「出」はいつまで (14/07/04)
たおやかな震える手で — まいまいのタフな優しさ (14/06/30)
生駒ちゃんの知らない生駒ちゃんの武器(14/06/21)
のっそり構えて突然に — 佐々木琴子の冷静と情熱のあいだ(14/06/16)
軽やかな自在のリテラシー — 佐々木琴子のおしゃまな知性(14/06/05)
無意識を言い訳にして — いくちゃんとななみんのもたらす理知とナンセンス論理の笑い(14/05/31)
飛ぶ鳥と書いて飛鳥、暴風雨を衝いて飛翔す(14/05/22)
運営は退いた、乃木坂派は勝った(14/05/14)
手を伸ばすことそれ自体の希望と美 — 思春期の表象としてのワカツキ(14/05/01)
「ナナミさん、辞めないでよ(ミサト風に)」と言えるとしたら (14/04/25)
運営よ、戦いは心胆にあるぞ(14/04/18)
浸食しに、と彼女たちは言う — 乃木坂植民地『生ドル』(14/04/13)
置き忘れられるロジック — エンジンなしの暴走機関車:かずみん(14/04/07)
生まれ育ったままで — さよならアキモティクス、と言えるその日まで その2(14/04/01)
みなさんが察していないであろうあしゅ(14/03/22)
強く儚いななみん(14/03/17)
ようつべの一角で「オラに元気を分けてくれ」を叫んだ乃木坂(14/03/11)
冬月流に「勝ったな」、と「気づいたら片想い」MVを観た乃木坂ファンは誰しも呟く(14/03/08)
「チームよねすけ」は幻と消えた — 佐々木琴子の不思議なこだわり(14/02/28)
何かを手放して そして手にいれる そんな繰り返しカナ? — 乃木坂組はヤワじゃねえ その1(14/02/25)
さよならアキモティクス、と言えるその日まで その1(14/02/24)
本人の美意識、他人の美意識、真の美への美意識(14/02/22)
導かれたんだよね、運命だったと思う、と乃木坂ちゃんは言った その1(14/02/16)
なーちゃんセンターに心臓を捧げよ、と生駒ちゃんは言った(14/02/13)
いえ、浸食してるんだわ — 少女世界からの剣、聖なる侵入(14/02/07)
鉄壁を目指した擦り合わせで別物に生まれ変わった『NOGIBINGO!2』(14/02/05)
上がった下がったなんでなんよーという乃木坂ファンの方々へ — ダブル5トップの可能性(14/01/30)
福神なんて飾りです。疎い人にはそれがわからんのですよ(14/01/27)
ライト・ヒア、ライト・ナウ、とゆったんは言った(14/01/25)
苦しく切ないことだらけの思春期の表象としてのワカツキ(14/01/18)
じっくり琴子を煮込んで女優(14/01/13)
ジェネラル・クールの凱旋 — 橋本奈々未、「バレッタ」で覚醒す(14/01/11)
地獄先生ななみん その2(14/01/03)
ちょっと遅れのクリスマス・プレゼント2本、フロム乃木坂(13/12/17)
地獄先生ななみん(13/12/13)
自分を捨てずただ乃木坂に身命を置いた奈々未先生の美はべらぼうに強く清らかだ!(13/12/04)
乃木坂46応援ブログ宣言に代えて(13/11/23)