びしゃてんもんに花束を — 勇将かずみん静かに出師す
韓遂のじじいは ひとつだけいい事を言ったッ!
貴様は錦だ 馬超!!
美しく義憤を貫けい!! (馬玩)
— 『蒼天航路』 その三百十七 より
Kid, precious kid
Your eyes are blue, but you won't cry
I know angry tears are too dear
You won't let them go
— The Pretenders "Kid" より
2016年12月号の『BUBKA』といえば
欅坂46のもな王(志田愛佳)ダニーヌ伯爵(織田奈那)ぺーたん(渡辺梨加)による
「まなかのオモチャ」が爆笑ナンセンスと愛に溢れた屈指の良記事として坂道界を賑わしましたが、
実はその陰に、後世の研究者が目を留めずにはおかないであろう鉱石がひとつ潜んでいました。
かずみん(高山一実)のインタヴュー記事「高山一実の作り方」では、
心優しく愛に溢れた、おどけ者の仮面の下に聖母性の根っこを照れ隠し持つ心配将軍かずみんが
止むに止まれぬ想いからか
去りゆく猛将・軍師ななみん(橋本奈々未)へのはなむけと意志の継承を公言し、
図らずもひとつの大きな乃木坂マニフェストともなっています。
(※ 但し、記事末に「10月13日、 都内にて収録」の記載あり)
第1節:「意外と怒る」で初手からかずみんは
いいヤツ・優しい人イメージに伴いがちな、
そしてともすればアンチ勢力のアンチ暴力アンチ犯罪に
自己弁護・どっちもどっち論・ギヴ&テイク説の土台を与えてしまいがちな
「アイドルはいい人・良い人・善い人、少なくともそう志しそう見せるべき」論に
カウンターを放ちます。
— 変な話ですけど、高山さんって怒ったりします?
高山)キレますよ、普通に(笑)。
— 怒ってるイメージがあまりないんですよね。
高山)ファンの人にはあるのかな?でも私、割といろんなことに怒っていて。特に理不尽なことには怒りますよ。たとえば、握手会って基本的にはなにを言われても笑顔でいなくちゃいけないと思うんですね。でも以前にずっと嫌なことを言い続けてきた人がいて、そのときはさすがに怒りました。実は言い返しちゃうタイプなんですよ、私。
— どちらかというと、自分の感情を抑えてその場を丸く収める方向を選ぶタイプかと思っていました。
高山)たぶん嘘をつけないんですよ。うん、それはあると思います。だって嫌じゃないですか、ペコペコしてなにを言われてもいい顔して、周りの人たちから舐めてかかられちゃうのって。だから、本当に嫌な人に対しては我慢しないですよ。
乃木坂46に限ったことでもなく、昨今の多くの女性アイドル歌手グループのメンバーには
ファン/アンチ/運営お偉いさんの3方、
あるいは「アンチが捏造する『世間』」なども併せての3.5方や4方から
「なぜおまえはそうなんだ?」「なぜおまえはオレサマの言うとおりこうこうしないんだ?」
という言いがかり・圧力・強制・排斥・罵倒・暴力が寄せられます。
そうした主に「オトコ」の暴力に、事あるごとに敢然と
時にシャレた揶揄をもこめて立ち向かってきたメンバーの代表格がななみんでした。
そして「乃木坂おもて仕事」の場においては
そういうななみんにシンパシーを感じるメンバーとしてのかずみんというのは
特に目立つ存在だったというほどではなかったでしょう。
しかしここに来て —
"未来の乃木坂リーダー":あしゅ(齋藤飛鳥)がその大器を開花させ
「乃木坂46の良心 (©橋本奈々未)」:まいまい(深川麻衣)が卒業し ※1
乃木坂の毘沙門天/多聞天:ななみんもまた卒業してゆくここに来て、
実はななみんとのごはん・お泊りの機会が多かったかずみんが
何かを考え何かを始めなければならない、と思い至ったということは想像に難くありません。
さらに、第2節「人間っていいな」でかずみんは
乃木坂メンバー間を、というよりは
ファン兼アンチ内の「メンバー間」像、運営側の意向による「メンバー間」像を鋭く見据えた、
その上でなお強力でもっともなヴィジョンを披露します。
— さっきからたびたび出てきてますけど、やっぱり高山さんのなかには「嘘をつきたくない」という思いが根底に強くあるのかもしれないですね。
高山)そうですね。だから私がいままで好きって言ったメンバーや友達は本当に大好きだし、逆に公の場だからといって、好きじゃない人に大好きとかはまず言わないです。乃木坂46ではこれまで自分が経験したことがないぐらいにたくさんの女の子が集まっていて、しかも年齢も育った環境もひとりひとりぜんぜん違うわけじゃないですか。だから、それはもう性格が合わないことがあっても仕方ないと思うんですよね。そういうなかで誰とでも仲良くしなくちゃいけないのかというと、それもまた違うような気がしていて......うーん、うまく言葉にするのは難しいんですけど。
乃木坂46には、シングル表題曲選抜メンバー16、17、18、19名のお仕事のみならず、
いやむしろそれよりずっと多くの、2〜4名の、5〜7名の、10〜16名... のチーム仕事がありますね。
そこにはたとえば
星野みなみ&堀未央奈の「みなみおな岐阜旅行」や
高山一実&西野七瀬の「ずーなーちゃんUSJの休日」や
秋元真夏、桜井玲香、若月佑美、中田花奈の「女子校カルテット座談会」のような
自然発生的な好顔合わせであるからこそ
メンバー自身もノレて、ファンにも未ファンにも強力に訴える名プロダクトの数々の履歴があります。
対して、「運営の意向」や「ファン(兼アンチ)の要望」から強引かつ無根拠に作られたかのような
「何をどう考えてその組み合わせを考え出しました?」ってなプロダクトが時にあるのも否めません。
確かにメンバーはプロとして仕事をしているのであって
個人的な仲良し関係だけをパフォーマンス/プロダクトの売りにしていけるわけでもありませんが、
それでも、何らかの「意向」によって
「この場だけは頑張って仲良くニコニコしてね」みたいなことや
「キミとキミはこれからこれこれコンビだからね」みたいなことが大勢を占めていくようであれば
乃木坂46を乃木坂46たらしめてきた、そしてそれゆえにファンの支持を得てきた
土台・根本のアイドルネスそのものが崩れ、「つまらん作り物」としてそっぽを向かれ始めるでしょう。
おっとりほんわか善人メンバーとしての支持も多いかずみんが
こうした「強い」言を敢えて放つのを、放たずにはいられない何かを感じているのを知れると同時に
「乃木坂46の良心」が姿・形を変えつつも受け継がれてゆくことを確信できる好インタヴューでした。
私はななみんとの思い出がたくさんあるから
悲しくも寂しくもありません
— 「在宅」で、1度もななみんに会ったことがなくとも、ボクは確信を持ってそう言えます。
ななみんのような人がななみんのような形で前代未聞の真・善・美をアイドル領域で見せてくれた、
そしてどこで何をすることになってもななみんはやはりななみんであり続けるだろう、
それだけでボクはもう充分な幸福感と希望と感謝の念を感じています。
そしてななみんを近しく見ていたメンバーもまた
ななみんから受け取ったものを今度は自分自身のヴィジョンやタスクに落としこんで
乃木坂46に様々な形の力や新風をフィードバックしてくれることと思います。
アンチの暗黒面を持たざる真のファン同胞よ、戦いは心胆にあるぞ!
※1
2016年5月号『EX大衆』「深川麻衣と語ろう。 第1回 橋本奈々未」より
— 橋本さんにとって深川さんの卒業は意外じゃなかった?
橋本)(前略)驚きよりも「先にいってしまうのね」という寂しさがありました。「乃木坂46の良心がいなくなってしまう」「空気が悪くなった時、まいまいのように癒してくれるメンバーはいるんだろうか」とか、まいまいがいなくなった後の乃木坂46を考えることは増えましたね。
