スキルでなくにんで勝負する橋本奈々未の真骨頂『24時間女優 -待つ女- #7』

張角「逆に あなたの近くには 天下に覇を唱える方がおいでだ
   あなたと共にある限り その方は天子となられよう
   そしてあなたは後の世に 神となられるお方だ」
関羽(私が? 神に!?)
張角(しかり)
関羽(なんと)
  「佞言断つべし」
張角(お見事! 関羽殿
   しかし 後の世にあなたを思う民の心を表すには 私は神という言葉しかうかばん)
—『蒼天航路』その三十七 より



タイトルにある「にん 人」というのは
古語的には「ひと、ひとがら」を表す、現代では特に芝居/演技関連で使われる
「役柄に説得力を持たせるに足る、その人個人の元々の人格性」
ってな感じの用語です。
判り易く極端化しての例を挙げてみるなら、たとえば現在17才の純朴少女 広瀬すずちゃんに
「24才のエリート意識ぷんぷんのいけすかない医大生」の役柄は務まりようがありませんよね —
この場合、今のすずちゃんにはその「にん」がない、というふうに言います。



で、乃木坂46のななみん(橋本奈々未)の話に移って。
以前は鉄板イジられネタとして「月9女優」の尊称を持っていたななみんは、
その月9ドラマ『SUMMER NUDE』出演のみならず
TVドラマ『BAD BOYS J』『LOVE理論』、映画『超能力研究部の3人』などの
「女優仕事」に話を振られると
照れくさそうに面映そうに、「勘弁してくださいよ、もう」ってな感じに
謙遜からというよりは、本気の気恥ずかしさやある種の申し訳なさから
「ほんっとに『女優』なんてもんじゃないんです。お仕事を有り難くお受けしただけなんです」調の
ちょっと頑ななくらいの拒否りっぷりで褒められる流れを固辞していたものでした。
何よりそれは
乃木坂ちゃん内にずっと小さい頃から自覚的に女優を目指してきたメンバーがいるのを知る手前、
そういう志向であったわけでもないしそういうスキルがあるとも思ってない自分が
その方面で持ち上げられることへの抵抗感と申し訳なさゆえだったのだと思われます。



自他ともに認める狂熱的なナナミストであるボクは、そのくせ
『超能力研究部の3人』をまだ33分地点まで観たきりで中々観進められずにいるのですが、
ひかりTVの配信ドラマ『24時間女優 -待つ女- #7』は折りにふれ何度もリピートしています。
しかも8分間のドラマ本編部分を優先して。
ボクにとってのこの作品は、橋本奈々未主演作であると同時に、単純に「面白いドラマ」だからです。





『待つ女 #7』が面白いのは、フツーにスリリングかつメタなドラマツルギーがきっちり成立していて
その主役(というか実質1人きりの登場人物)が橋本奈々未であることに必然性があり、
しかもその橋本奈々未という芸能人/アイドルを知らない人が観ても面白く出来ているからです。
いきさつ話こそ知らないもののボクは、このドラマ企画のきっかけ・実現には
脚本・演出の北村拓司氏、監督の栢菅 翼氏が、何かで動く・喋る橋本奈々未を前もって知っていて
メタなすっとぼけナンセンス喜劇を「素知らぬ顔で」演じてのけるにんを持っていそうな人物として
マークしイメージしストーリーを創作・調整し
「イケる筈!」「成れり!」と青写真が描きあがった前駆的工程があったと推測します。
ネタバレはさすがに避けてぼやかして言いますが、
このドラマの主人公のシンバル奏者は、糞マジメなくせに浮世離れしたぶっ飛びの非常識人で
しかもそのことに全く無自覚らしく最初っから最後まで自分的には大マジで —
そう、ナナミストの我々を笑わせ魅了してきた『乃木坂って、どこ?』のななみんそのままなのです。
つまりはここで必要とされているのは、そうしたにんを持つ橋本奈々未という人間全体であり、
その放つ説得力は、いかなるスキルや積み重ね習練や短期集中の稽古やによる「演技力」を以てしても
「ない人にはない、持ってない人にはいくらがんばっても放ちようがない」ってタイプのものであり、
よってもってこの役は、橋本奈々未以外では演じようがない、となるのです。



論より証拠、観てみれば判りますよ。
ここでのななみんは、別に必殺の演技、巧い演技、驚くべき演技、鬼気迫る演技をしてるわけじゃない。
ある意味「いつものななみん」そのままであると同時に、ぶっ飛びのシンバル奏者そのものなのです。
ドラマ自体、脚本自体、メタな「てい 体」自体が自律的なスリルあるウォッチャビリティを生む。
それを持続させ、最後の最後でどーんとカマし
「やられた!」のエンディングまですっとぼけを崩さない、橋本奈々未の力量ならざる力量。
がんばってスキルを上げて「女優になる」人とは対極にある
がんばろうががんばるまいが、向いていると思っていようがいまいが「女優であってしまう」人の、
クリエイターがどうしようもなく求めてしまう類いの画的依り代としてのポテンシャル。
作品を創ることそれ自体が第一義である時、橋本奈々未はまちがいなく「女優向き」なのです。



数奇な巡り合わせ・タイミング・不運と流れもあって
「乃木坂46の橋本奈々未は、別に女優に向いてなどいなかったのだ」という言説が
当のななみんにすら真実のように響いているとしたら、ボクは
「やっぱしょーがないな、ニッポンのゲーノー界」とふてくされの八つ当たりをカマしたくなります。
近いところなら『探偵の探偵』、
あの北川景子さんの役どころみたいなものに、ななみんが潜む心火を叩きつけられたら、と
そういう脚本家/監督がそういう面から目をつけそういう役どころを小さくともくれさえしたら、と
勝手なないものねだりを承知でボクは毎晩アレサ・フランクリンのように祈ります。



「一般社会で生きていくとしたらめちゃくちゃ面倒くさいし、あんまり理解されないでしょうから」
「実はものすごい気分屋だし、ものすごく感情の起伏が激しいしムラもある」      ※1
と仰るななみんは、それらが多くの、あるいはほとんどの「女優さん」たちが心中に潜め持つ
メンタリティ上のほぼ必須の要件の大事なひとつであることに思い至ってはいないのでしょうか?
小説や漫画やロックには興味があっても映画/ドラマにはそれほど関心がなかったゆえ   ※2
「いえいえ、わたしが女優業なんてめっそうもない」みたいに思いこんでいるだけでは?
『待つ女 #7』レヴューから思いがけず「女優橋本」論に踏み込んでしまいましたが、
「橋本奈々未の説教系ファン」のはしくれとしても
好き放題の言いたい放題への悪魔の誘惑をことわって
これからも「論」と言うに足るものを根気強く放ち続けていく所存です。



 


※1
『BRODY』vol.03 2016年2月号「移りゆく景色、変わらない自分」より
—(前略;肝が据わっている云々から)結果そこが強みというか、魅力に見えるんですよね。
橋本)でもここを魅力として見てもらえるのって、たぶんこの仕事しかなかったなと思います。一般社会で生きていくとしたらめちゃくちゃ面倒くさいし、あんまり理解されないでしょうから。それがお仕事として自分にプラスになって返ってくるのはこのお仕事しかなかったので、こういう環境でよかったなと思います。
— 自分ではどう考えてますか、橋本奈々未らしさって?
橋本)(前略)実はものすごい気分屋だし、ものすごく感情の起伏が激しいしムラもあるんですけど、最終的にいろんな方から助けられて支えてもらい、ここにいるのが自分なのかなって思います。(後略)

※2
『EX大衆』2015年9月号「橋本奈々未インタビュー」より
—(前略)乃木坂46加入前に演技経験はないと思うんですけど、ハマってた映像作品はありますか?
橋本)ないですね。ドラマや映画を観ても「内容が面白いなぁ」と思うくらいで、役者さんの演技を気にしてなくて。そもそも芸能界に関心がなかったので、役者さんの名前も知らなかったんですよ。(後略)







  

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