推しが足りない不遇の傑作:「羽根の記憶」MVをいまさらながらでもレヴュー

気づいたらこのブログでは
もう1年以上も乃木坂46のCD/DVDプロダクトのレヴューをやってなかったわけですが、
それはより共時的フロー的なパフォーマンス/プロダクトである各種「番組」と
メンバーの心の動きのほうにより大きな関心と、なんなら心配があるためで
けっしてソニー発の音楽/映像プロダクトに興味を失ってるせいではありません。
というわけで、いきますよ〜?



幸か不幸か、というかファンにも未来ファン候補にも明らかに不幸だったことに
12th『太陽ノック』セブン-イレブン4万枚限定盤のみに収録の「羽根の記憶」MVは、
にもかかわらず2015年の乃木坂のベスト3に楽に入る傑作でした。
その後『ALL MV COLLECTION』4枚組ver.に収録されましたので
新参ファンの方々はチェキラあれ。



公式サイトのMV公開時のリリース情報には
「10年後の将来を見据えながら、アイドルとして活動する現実を再認識する
 乃木坂46メンバーの姿が描かれています」
なんて梗概がありますが、そんなことを知らずとも、
というよりむしろ知らないままで観たほうが
常に複数の解釈を可能にする余地を持った、シンプルなようで奥深い画像/寓意マジックで
何回観ても何十回観ても、要所要所で思わず知れず泣けてしまう泣かされてしまう
という驚異的作品に仕上がってます。
一見ポップめで楽しく綺麗な「アイドルMV」仕様に思えて
実は幾層にもアナロジカルなフックを含めてあるこのMVは、
「君の名は希望」の流れを同じ作家陣(杉山勝彦&有木竜郎)が汲んで
最高のサウンドとアレンジで放つその楽曲と併せて
現時点での乃木坂46の真価とこれからもまだまだのポテンシャルを
めいっぱい、なのに驚くほどさりげなく力みなく提示する傑作中の傑作だと思います。
乃木坂46 『羽根の記憶』
(※フル解除期未定のショート・ヴァージョン)
乃木坂 46 OFFICIAL YouTube CHANNEL さんから



選抜18人の出演メンバーは
この作品世界中ではおそらくもう乃木坂46メンバーではありません。
解散か何かで乃木坂46はなくなっているものと思われます。
数人は芸能界、あるいは少なくともメディアに縁のある世界に生きています。
まいやん(白石麻衣)生駒ちゃん(生駒里奈)いくちゃん(生田絵梨花)わか(若月佑美)
ゆったん(斉藤優里)さゆりん(松村沙友理)みさみさ(衛藤美彩)はほぼ間違いなく。
学生オンリー生活にあしゅ(齋藤飛鳥)みなみ(星野みなみ)は戻り、
ななみん(橋本奈々未)なーちゃん(西野七瀬)れかたん(桜井玲香)真夏さん(秋元真夏)
まいまい(深川麻衣)まりっか(伊藤万理華)さゆ(井上小百合)かずみん(高山一実)
まいちゅん(新内眞衣)は
故郷の街か東京、大阪あたりで学生か社会人か何らかの「卵」として生活しています。
ヴェテランだったり新人だったり、職場だったりオフ・タイムだったり
いずれにせよみんな落ち着いていて幸せ、あるいは心安らかそうです。



ところが突然、「君の名は希望」MVを想い起こさせる見えない異空間の指揮者のタクトと音楽に
操られるようにみんなの口と身体が動き始めます。
唄とダンスの記憶が、今の生活と場に、関係もなくとも干渉し侵入してくるのです。
パントマイムふうのコミカルな動き含め、みんな驚きつつもどこか嬉しげです。
歌詞にあるような「10年後の自分」というよりは
もう1、2年後かほんの半年後かの乃木坂ちゃんたちって感じです。
まいやんは何となく大女優かトップ級モデルのようですが
あしゅ&みなみはまだ高校生らしく制服姿ですし。
あるいはそれは平行世界の、乃木坂46が存在しなかったタイム・ライン、
あるいは乃木坂に参加してなかったらの彼女たちのタイム・ラインなのかもしれません。
羽根の記憶、半分忘れていたヴィジョンの記憶にみんなは初め、怪訝そうですが
「勘を取り戻した」かのようにセカンド・コーラス時には既にノリノリです。



いろんな服と役柄設定とシチュエーションで
それぞれに個性的でハマった乃木坂ちゃんたちの美しさかわいさ可憐さが
華やかにポップに、でもリアリスティックに表されてます。
殊に、コイン・ランドリーのななみん、古着屋のまりっかが
キュートなのにリアルで「芸能界と一般社会」の対照モチーフとして効いてます。
軽やかで見目麗しいアイドルMVに、巧妙にスパイスと布石が仕込んであるのですね。
そして裏の、おそらくは真のモチーフが炸裂する「転」のミドル・エイト時。



秋元康氏の歌詞自体は
モチーフの強さにふさわしい語彙/イメジャリーを最後までは高品質に保つことができず
繰り返し増幅/クリシェ連発に陥ってるきらいがなきにしもあらずですが、
にもかかわらずこのミドル・エイト部の音楽/映像ともにの強力なこと!
乃木坂46の傑作曲はほぼ常に必殺のミドル・エイトで名高いですが、
その中でもやはり杉山勝彦氏の、「希望」でも見せた展開/もう一押しのセンスは最高です。
乃木坂ちゃんの歌唱能力上限を試すようなファルセットにかてて加えて、
MVでは落ちるタクトと突然倒れゆく11人のメンバーの姿が
歌詞のもたらす元々の感動以上/以外に、よりヘヴィー、シリアス、ハードな寓意を纏って
観る者の涙腺をサンドバッグ状態にします。
芸能界、アート界、プロフェッション、趣味、日常世界の日用、各々ちがいはあれ
平常心で心安らかに、あるいは楽しげに生きて過ごしていた「元乃木坂メンバー」たちが
急に糸が切れたように、多くは凍りついた驚きの表情のまま
くずおれる人間というよりはマネキンかアンドロイドのように倒れていきます。
それはまるで —
乃木坂46時代を三々五々に脱却して次の道に落ち着き、なんなら幸せに過ごしていた
元乃木坂ちゃんたちが
ある時突然「ああ、乃木坂46メンバーの自分はもう死んでたんだった」と思い出し
その衝撃と喪失感の強烈さゆえに、苦しむ間もなく停止してしまう —
かのよう。
でも次の瞬間、まいやん・生駒ちゃん・まいまい・いくちゃんの涙をこぼす姿を経て
なーちゃんを初めとして全員が蘇生するように起き上がります。
そしてその時の彼女たちはおそらく、同じ場所同じ服装ではあっても
再び現役の乃木坂46メンバーに戻っているのです。
その状況証拠としては
異空間の指揮者の乃木坂楽曲の楽譜に落ちる涙が、
そして、砂浜で叫ぶなーちゃんの姿があります。
叫んでいるのは、たぶん
今はまだ乃木坂46でいたい、まだ乃木坂46としてやり残していることがあるから、
進むにしても還るにしてもまだ他の道・他の生は要らない、
たとえ乃木坂46ライフが幸せと安らぎに満ちたものでなくても、ということ。
まだ眠る無限大の可能性は、今しばらくは乃木坂46で試したい、ということ。
先にこぼされた涙は、乃木坂46の死という幻覚ゆえの痛みと悼みの涙、
そしてその模造記憶の悪夢から醒めての安堵の涙だったでしょう。



ただ、ラスト・シーンの生駒ちゃんの様子からすると「並行世界」説もまた捨て難い。
その場合、指揮者は乃木坂46の存在する世界にいて
彼女たちは乃木坂メンバーにならなかったタイム・ラインの彼女たち、とも言えそうです。
持ってない筈の「アイドルとしての記憶」に一時だけ目覚め、唄い踊り
そこから離れる痛みに泣き、しばらく蘇りまた唄い踊り、でも最後にはまた日常の自分に戻る...
ただ、その「日常の自分」はけっしてあの希望と情熱の記憶と余韻から2度と離れることはない...
そうすると浪漫性は少し下がるかもですが、リアルな痛切さはその分上がりますね。
そんな過剰なまでのボクの拡大解釈と紐づけ試行はどうあれ、
頑是ないこどもの頃思い描いていた無限大の選択肢が順当なひとつの現実と日常に収束し
無尽蔵で無制限の夢と希望が小さな「死」を迎える時の無慈悲なまでのあっけなさと恐ろしさを
ファンタスティックなアナロジーで描いた作品として観てこそ
このMVの複合的な、心をざわつかせる不思議なパワーが腑に落ちるものになる気がします。



監督は「ここじゃないどこか」「他の星から」MVの岡川太郎氏とのことですが、
その2作と比べて圧倒的にドラマ/ストーリー寄り。
セリフを使わずともここまで言外にドラマツルギーを匂わすことができるのか、って点で
従来の各感動名作プロパー・ドラマMVに勝るとも劣らない傑作です。
生きるということ、夢や希望を持つということ、苦しむということ、人生が続くということ、
その中で何かや誰かを愛する、愛おしむということ、が
まさに乃木坂46でこそできるやり方で、静かにも力強く語られています。
「ラジオで初めて聴いた途端に」系の直近の傑作曲としてなら
「何もできずにそばにいる」「命は美しい」「遠回りの愛情」を挙げるボクですが、
MV合わせて増幅させての涙量なら「羽根の記憶」は歴代ベストかもしれません。
らりん(永島聖羅)&まいまいの卒業発表と14th選抜発表『乃木坂工事中』第41回を受けて
何かを書かねばと思っていたら一気に書き上がってしまった今エントリを
時節はずれに突発的に発作的に放って現場からさようなら!



  



  






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それこそ10才から50才くらいまでも。
あらゆるアイドル的存在を崇める男です。
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